前回は、「自営業者・フリーランス夫婦の老後の必要な資金」を調べました。
その際に、個人事業主にとって退職後の資金形成だけでなく、事業運営にもメリットのある「小規模企業共済」制度を取り上げました。
今回は、その「小規模企業共済」の話をしたいと思います。
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自営業者・フリーランス夫婦の老後資金はいくら必要?不安は早期検討、早期実行で解消させる
仕事にかこつけて、老後の生活のことを真剣に考えてこなかったわたし。 仕事をしていれば、普通に老後は暮らせるものだと思っていました。 ネットで検索してみると「2000万円じゃ足りないよ」という論 ...
実は、わたしもこの小規模企業共済に加入しています。
小さな工場の経営者であったわたしは、節税手段、そして将来の退職金代わりとして数十年前に加入しました。
正直言いますと自分で調べて入ったというのではなく、他の方に勧められて契約した言うのが本当のところで、制度自体の深い部分はその後も知りませんでした。
10年先の自分の老後を考える上で始めた自己学習で「節税」「退職金」以外のメリットを今更ながら知り、個人事業主や会社役員を助ける有効な一つの手段として紹介するようになりました。
小規模企業共済とはどんな制度なのか?
よく言われる「節税手段」「退職金代わり」以外の、個人事業主や小さな会社の経営者にとってはありがたい幾つものメリットも含めてこの制度の話をしていきます。
ここでは以下の流れてお話していきます。
- 小規模企業共済の概要
- 小規模企業共済が、将来の資産形成手段として優れているところ
- 小規模企業共済が、日々の事業運営手段として優れているところ
- 小規模企業共済の加入に際して気を付けなければいけないところ
国民年金基金やiDeCoと並べられて資金形成手段として紹介されることの多い、小規模企業共済。
しかし「企業共済」という名称は伊達ではなく、これら2つの制度とはまったく違った顔を持っています。
将来のご自身の生活を支える一つの手段として、そして現在営んでいる事業の安心手段として、まだご加入をされていない事業主の方はこの機会に、小規模企業共済を検討してみたらいかがでしょうか。
退職金だけではない!貸付制度も心強い小規模企業共済
小規模企業共済は小さな会社の経営者、個人事業者に向けて、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が提供している資金形成制度です。
業種によって条件は異なりますが、おおむね常時使用する従業員の数が20人以下または5人以下の個人事業主や会社役員が加入することができます。
毎月一定の掛け金を積み立てるのですが、受け取る共済金の金額は加入者が支払い請求をした際の理由によって変わってきます。
最初に掛け金は支払い方法などを簡単に説明します。
小規模企業共済の加入資格
以下の条件を満たしている人が、小規模企業共済に加入することができます。
該当業種・条件 | 常時使用する 従業員・組合員数 |
建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業など | 20人以下 |
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
上記2つに該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで) | ー |
企業組合の役員、協業組合の役員 | 20人以下 |
農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員 | 20人以下 |
弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員 | 5人以下 |
備考:※2つ以上の事業を行っている事業主または共同経営者の方は、主たる事業の業種で加入。※「常時使用する従業員」には、家族従業員、共同経営者(2人まで)を含まず。※「会社等の役員」とは、株式会社・有限会社の取締役または監査役の方、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員の方を指す(ただし外国法人の役員は除く)。
小規模企業共済の掛け金
小規模企業共済の掛け金は、積立額の設定や支払い方に選択肢が設けられています。
毎月の掛け金
月額1.000円~70,000円の間で500円単位で設定ができます。
以前は減額に関しては条件がありましたが、現在は掛け金の増減に関しては自由に行うことができます。
ただし減額した口分は運用方法が変わりますので注意です。(後述:納付月数240ヵ月の注意)
掛け金の支払い方法
掛け金は基本、個人の預金口座からの引き落としとなります。
掛金の支払い方法は、月払い・半年払い・年払いから選択できます。
共済金の種類・受取額
小規模企業共済が給付されるタイミングは、おおまかにいうと「事業自体が無くなったとき」・「加入者本人が亡くなったとき」・「仕事から離れたとき」となります。
加入者が受け取ることのできる共済金は、事業の形態(個人なのか会社組織なのか)・受取時の状況(事業の廃止、病気ケガによる退任等々)によって種類が変わってきます。
積み立てた共済金は加入者が事業を廃したなど仕事が続けられない理由が深刻なほど、解約手当→準共済→共済B→共済Aという順で受け取る共済金の額は大きくなります。
個人事業主や小さな会社の経営陣にとって、小規模企業共済が将来の資産形成手段として優れているところ
小規模企業共済加入者は、掛け金の全額所得控除や共済金受け取りの際の優遇税制などを受けることができます。
掛け金の全額所得控除
小規模企業共済は掛金全額を年間所得から控除することができますので、積立をしながら節税にもなります。
1年以内の前納掛金も控除できますから、例えば毎月7万円を来年分も含めて納付すれば、1,680,000円をその年の所得から控除できます。
共済金の受け取りにも各種控除が適用される
共済金や解約手当金の受取方法は、基本は「一括受取り」となります。
しかし、指定の条件を満たせば「分割受取り」および「一括受取りと分割受取りの併用」の受取方法を選択することも可能です。
共済金を受け取る際には、税制上の控除を受けられます。
ただし、受取り方によって控除の種類も変わってきます。
これもおおまかにいうと「一括は退職所得扱い」、「分割は公的年金等の雑所得扱い」となります。
ちなみに退職所得控除額は以下の計算式で算出します。
勤続年数 | 控除額 |
勤続年数が20年まで | 40万円×勤続年数(80万円より少ないときは80万円) |
勤続年数が20年を超える | 70万円×勤続年数-600万円 |
例えば、勤続年数が30年だった場合は70万円×30年-600万円=1500万円もの控除が受けられます。
個人事業主や小さな会社の経営陣にとって、小規模企業共済が日々の事業運営手段として優れているところ
小規模企業共済の加入者は、掛金の範囲内(掛金の7~9割)で事業資金を借り受けることができます。
貸付制度
小規模企業共済には、7つの貸付制度が用意されています。
「一般貸付け」「緊急経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」「福祉対応貸付け」「創業転業時・新規事業等貸付け」「事業継承貸付け」「廃業準備貸付け」の各種貸付制度です。
貸付制度名 | 借受限度額 | 借受期間 | 返済方法 | 利率 |
一般貸付 | 掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で、10万円以上2,000万円以内(5万円単位) | 借入金額に応じて、6ヵ月~60ヵ月 | 借入期間によって期限一括償還または6か月ごとの元金均等割賦償還、利子は返済方法による | 年1.5% |
廃業準備貸付け | 掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位) | 12か月 | 期限一括償還、利子は借入時に一括前払い | 年0.9% |
その他5種 | 掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位) | 借入金額に応じて、36ヵ月または60ヵ月 | 6か月ごとの元金均等割賦償還、利子は貸付時および償還時に6か月分前払い | 年0.9% |
※「元金均等割賦償還」とは返済金額のうち元金だけを均等とし、返済が進み元金が減るにつれて支払う利子も少なくなる返済方法。 ※上記貸付内容は2020年10月現在のもの
積立金は差し押さえられない
事業を営んでいると不意な出来事も起こりえます。
縁起でもありませんが、自己の財産を差し押さえられてしまうような危機がやってくるかもしれません。
この小規模企業共済の共済金は、小規模企業共済法第15条によって国税の滞納を除いて差し押さえができない「差し押さえ禁止財産」に指定されています。
小規模企業共済法 第十五条 共済金等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、その権利が相続により承継されたものである場合、第十三条第二項の規定により通算の申出をしようとする者に対しその申出をすることを条件として当該通算の対象となる旧共済契約に係る共済金等の支給を受ける権利を譲り渡す場合及び国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。(共済金等の返還)